MTF曲線って知っていますか?
カメラメーカーのレンズのページには必ず載っているMTFの文字。カメラを好きな人でももしかしたら知らない人もいるかもしれません。
知らないまま過ごしても問題はないようなものと言えばそれまでなのですが、知っていればどんなレンズか知ることができ、レンズ選びの際の基準の1つにできるのでとても便利な指標です。
今日は誰にでも理解できるように、できるだけ簡単に、MTF曲線とは何か、どのように活用するのか解説していきたいと思います。
この記事を読めばMTF曲線についての最低限の知識が身に付き、実際にMTF曲線からレンズの特徴を知ることができるようになります。
ちなみに僕はカメラ歴7年、買ったレンズは約10本。MTFを知ってから、レンズを選ぶ際には参考にしながら比較して選んでいます。
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MTF曲線って何?
MTF曲線はパッと見ると難しそうなグラフと説明が載っています。ここでは分かりやすく簡単に解説していきます。
まずはMTF曲線とは何のことか。
FUJIFILMのホームページに載っている説明を引用してみます。
文章を読んでみてもイマイチ分かりません。MTFとは、Modulation Transfer Function。日本語に訳すと「変調転送機能」、なおさら分からなくなります。
この文章を簡単に要約すると、
「白と黒が書かれたチャートと呼ばれる絵をレンズで撮影し、そこに書かれた白と黒のコントラストがどれだけ忠実に再現できるかを表すもの」
つまり
MTF曲線とは、レンズの性能をグラフと数値で客観的に見ることができるツール。
MTF曲線によって、どんなレンズかが分かる。
というものです。
読み方を丁寧に解説
定義は理解できても内容がどんなもなのか分からないと意味がありません。
ここではFUJIFILMのホームページに記載されているMTF曲線を見ながら読んでみましょう。
このようなMTF曲線のグラフが、どこのメーカーでも、1つのレンズに1つまたは2つ載っています。
グラフの縦軸・横軸の意味は?
グラフの横軸=センサーの中心からの距離です。
APS-Cサイズとフルサイズではこの値が異なります
・APS-C センサーサイズ=23.5mm×15.6mm、対角線=28.4m、中心からの距離=14.2mm
・フルサイズ センサーサイズ=36mm×24mm、対角線=43.27mm、中心からの距離=21.6mm
このレンズはAPS-Cサイズなので横軸の最大値が14.2mmになっています。
グラフの縦軸=コントラストです。
これは最小0で、最大が1の値を取ります。1に近いほど良く、0に近いほど悪いと言えます。
左右2つのグラフの意味は?
また、空間周波数が15本/mmと45本/mmと書かれた左右のグラフがあります。
空間周波数が小さい方(15本/mm)のグラフではヌケの良さ、つまりどれくらいクリアでコントラストが良いレンズかが分かり、大きい方(45本/mm)では解像度、つまりどれくらいシャープかが分かります。
どちらのグラフも1に近いほど、良いということです。
この15本と45本というのはFUJIFILM特有の値で、他のカメラメーカーでは、例えばNikonでは10本と30本というように異なる空間周波数が使われています。
ですが考え方は、コントラストと解像度を見るという点で同じです。
グラフ内の2本の曲線の意味は?
さらに1つのグラフにはS(同心円方向)とM(放射方向)の2本曲線が引かれます。
同心円方向とは中心から円状に広がっていく距離の変化、放射状とは中心からセンサーの角への直線変化を表します。
同心円状と放射状変化
黒線が同心円状(S)の変化、青線が放射状(M)の変化です。
なぜこれらの2つの変化が記載されているのでしょうか?
どちらかだけでも良いのじゃないかと思う疑問もあるかと思います。
その理由、それはレンズの特性を考慮してのことです。
デジタルの写真は小さな光の点の集合体として描かれます。その点がレンズのどこの場所でも完全な円形で全て同じなら良いのですが、収差と呼ばれる、中心と端ではやや変化して楕円形になってしまう特性があります。
同心円状と放射状では異なった傾向を示すので2つの曲線を書くというのが理由です。
つまりS(同心円状)とM(放射状)の2本の曲線が一致しているほどボケが綺麗ということになります。
グラフを読むに当たって
それと注意することはMTF曲線のF値はほとんどが開放時のF値を使用しています。
開放では収差が影響が出やすいので、MTF曲線のグラフにレンズ特性が出やすいからです。逆に絞って撮ると、収差の影響が小さくなるのでMTF曲線の値は良くなっていきます。
もう1つ、上のMTF曲線は単焦点レンズのグラフですが、もちろんズームレンズにもMTF曲線はあります。ズームレンズに関してはワイド端とテレ端の2種類のグラフが示されています。ワイド側とテレ側で、コントラストが…ボケが…といったようにそれぞれの特性を知ることができます。
一般にMTFの縦軸の値が、0.8以上が優秀、0.6が良好なレンズされています。これらのこともグラフを読む際に考慮しておきましょう。
ここまで解説したことをまとめると
・グラフの横軸はセンサーの中心からの距離 → APS-Cとフルサイズでは異なる
・グラフの縦軸はコントラスト → 1に近づくほど良い
・空間周波数が小さいグラフ → コントラストが分かる
・空間周波数が大きいグラフ → 解像度が分かる
・同心円状と放射状の曲線が一致するほど、ボケが綺麗
・ズームレンズではワイド端とテレ端の両方を見る
・縦軸 : 0.8以上=優秀、0.6以上=良好
これらのことを覚えておけばMTF曲線を読めるということです。
実際にMTF曲線を読んでみる
ここからはFUJIFILMのレンズのMTF曲線を実際に読んでみようと思います。
今回使用するMTF曲線はFUJIFILMの中でも非常に人気の高いレンズXF23mmF1.4とXF23mmF2です。
XF23mmF1.4から読んでいきます。
まず写真左の、15本/mmの方のグラフです。
レンズ中心からある程度までは1に近い値でM(放射状)、S(同心円状)ともに一致しています。しかし中心から8~9mm程度離れた場所になるとMが高い値を維持しているにも関わらず、急激にSが下がってしまいます。
このことから言えるのは、中心からある程度までは完璧なレンズだけれど2/3程度離れると収差が目立ち、ボケが乱れてくるということです。
Sが0.4程度まで落ち込んでいます。ただ実用的には端のボケはそれほど気になりませんし、Mの値はほぼ一定で良く、放射状にはクリアでヌケが良いレンズということです。
45本/mmのグラフでは全体的に値はそれほど良くありません。レンズからの距離が1/2ほどからMとSの差が大きくなり、最終的には差が大きくなってしまいます。
このことからシャキっとくっきりなレンズということはできないです。
次はXF23mmF2のレンズです。
15本/mmのグラフでは値はある程度キープしたままMとSの差もそれほど開きません。F1.4と比較して、Mの下がりはこちらの方が大きいものの差が開かないということから、全体的に高コントラストでヌケが良く、ボケが綺麗なレンズと言えます。
45本/mmのグラフでも2つの曲線がほぼ近い値を取りながら推移しています。
F1.4と比較するとMが周辺域でかなり落ちてきますので、平均的な解像度はやや劣っているかもしれませんし、描写が甘くなることがあるかもしれません。しかしボケが圧倒的に安定して綺麗ということは言えます。
これらのことから考えられるのは以下のようなことです。
2つのレンズともにヌケが良く、コントラストが高いレンズ。
F2の方がF1.4よりボケが綺麗で安定感があるレンズ。
F1.4の方が特徴的なボケ方をするレンズ。
しかしながら、F2は開放で描写がやや甘いかもしれない。
FUJIFILMのレンズの中で、23mmと並んで代表的なレンズ、XF35mmF1.4とXF35mmF2においても比較をしてみました。以下の記事ではMTFを含めた様々な角度から比較をしています。
結果的に35mmは圧倒的にF1.4がオススメというのが僕の考えです。
XF35mmF1.4とF2の徹底比較【絶対にF1.4がおすすめ】
レンズ選びの基準が変わるかも
ここまでMTFについて実際の読み方を解説してきました。MTF曲線を読めるようになるとレンズ選びの際の1つの基準になります。ある程度MTF曲線でレンズの癖を知った上でレンズを見てみると良いと思います。
ただしレンズの特性というのはレンズの個性でもあるので、MTFが1に近いから自分の好きなレンズになるというかと言うとそれは分かりません。
MTFを見てレンズを選ぶことは基準の1つかもしれませんが、MTFだけではなくて他のスペック、例えばAFや防滴防塵、サイズ感などを見ながら選んでいくべきです。さらには作例も見つつ好きな描写のレンズを選んで欲しいなと思います。
MTF曲線は2つのレンズを比較する時などに使用すれば最も良いツールになるのかなと思っています。今回の記事がレンズ選びの基準の1つとして参考になれば幸いです。